言語習得理論を応用した武術技術の伝承についての記事です。
人が第二言語を学ぶプロセスやメカニズムを研究する学問分野(第二言語習得)で有効性が認められている「Comprehensible Input(CI)」(理解可能な入力)という概念があります。これは言語習得以外の学習にも当てはまり、さまざまな場面で応用できます。
CIは、言語学者クラッシェンが1970年代に提唱したインプット仮説(Input Hypothesis)の中で示した重要なコンセプトです。
平たく言えば、学習者は現在の能力よりわずかに高いレベルの学習言語情報(音声、文章)を受け続けることで第二言語を自然に習得していくというものです。
当道場ではこの理論を運動学習に応用して指導しています。
具体的には「i+1」(i+1=現在の能力、1=1つ上のレベル)」の技術を順を追って徐々に教えていきます。
次に、A, B, C, C(i)+1を対人練習(チーサオ)に組み入れて反復練習を行います。アルファベット順は基本的なものから次のレベル(i+1)の技を指しています。
この作業を半永久的に繰り返します。(ルーピング)。
更に技の順序をランダム化して繰り返すことで定着が強化されます。
詠春拳ですので、接触練習のチーサオを通じて一連の作業を行います。
この方法論を実践すれば、技を意識的に使う状態から徐々に神経レベルの条件反射ができるようになります。
クラッシュが後に「発話はインプットの結果として自然に表出する」と理論を発展させたように、技が条件反射として自然に繰り出されるようになっていきます。
ただ、このアプローチを効果的に行うにはコーチ側がテクニカルに誘導することが求められるため、コーチ育成プログラムが重要な役割を果たします。
香港詠春拳クラブ