中央政府の言語政策は明らかに共通語である普通話(中国語)と簡体字の推進である。
広東語が近いうちに絶滅してしまうのではないかという懸念がちらほら聞かれるが、サウスチャイナ・モーニング・ポストの名物記者であるルイザ・タム氏は「戯言に過ぎない」と論を展開する。
タム氏は広東語・文化に造詣が深く興味深い発信で定評がある。
中国南方の広東省、香港のほか、世界各地の華僑コミュニティーを合わせると少なくとも8000万人以上(推計)の広東語話者がいる。
タム氏は「2000年近く話され続けている広東語は言語学的に唯一無二の特徴がある。広東語ほど『機敏で変化が速く奇抜で予測不可能な』特徴を持つ言葉はほかにない」と断言する。
広東語の言語学上の特性は彼女が主張する通りだ。
言語学の専門家の立場からしても間違いない。これまでドイツ語、英語、スペイン語、中国語、チベット語(アムド方言)などを研究したことがあるが、私も広東語ほど柔軟で変化に富んだ言語を知らない。
また、広東語は現代中国語には見られない古(いにしえ)の記憶をその語彙や発音を通じて思い出させてくれる。
こと香港系広東語においては柔軟に英語を吸収したこともあり同時に現代的な要素も包含する。また自身を変化させるスピードは目まぐるしく、本家の広州系広東語とは異なった独自の発展を遂げてきた。
現代建築物の狭間に神社が隠れているまるで古都・京都のようでもある。
外国語として広東語を学ぶ者が少数ではあるが一定数いる。もちろん私ものその一人。タム記者は魔法のような魅力を持つ広東語を「カルト的」であるともいう。
敬虔な信仰心を持つ信徒のように熱狂的なファンがいるほど魅力的な言語だと言いたいのだろう。
中国語(普通話)話者は広東語の10倍。タム氏は「言葉が生存できるかどうかは数だけの問題ではない。(言葉の)質(クオリティー)と独自性を高めることができるかも影響する」と主張する。
中国語が14億人の人口が意思疎通を図る共通語として重要な役割を果たすことに異論はない。ただ、繁体字も含めた言語文化も保存・推進するべきではないか。
私は広東語がこれからも古代から続く文化の深みを脈々と伝えながら進化していくと信じたい。微力だが広東語が「いかにオカルティックで魅力的か」伝えていきたい。(了)