
1ー3.
これまで外国語を学ぶのに話し言葉を中心に身につけることが大切であると説明してきました。
今回は、話し言葉と書き言葉(spoken language vs. written language)の違いについて考えてみましょう。
歴史において、話し言葉が研究の対象と注目されたのはいつ頃始かというと、実は1900年代前半になってからのことです。ソクラテスやアリストテレスの時代から2000年以上の間、アカデミアの世界では専ら書き言葉(テキスト、written language)が研究の中心として扱われてきました。
Chafe&Tanmen(1987)は、テキストは可視化されたデータであるため、収集、保存、操作、分析が容易だったと指摘しており、話し言葉が研究の中心とされたのも自然バイアスと述べています。したがって、話し言葉はテクノロジーの進歩なしにはデータ収集・分析が難しかったため、20世紀にdescriptive linguisticsで研究が始まるまで大変時間を要してしまったというわけです。
話し言葉と書き言葉(Spoken language vs. Written language)の違いを認識することが大切なのは、両者は言語という範疇においてはその主要構成を成すものでありますが、文構造的違い(structural differences )やスタイル(formal-informal style; mode)の点では、非常に異なった使い方がされるからです。これは学習者のみならず教師ですら見逃しがちな内容です。教員養成課程でこの点を強調されないプログラムも少なからずあります。
話し言葉と書き言葉の差異についての研究をついくつか紹介します。
Fairbanks & Mann(1944)は英語話者を対象に、あるテーマについて被験者が会話をボイスレコーダーで記録したデータと、別のテーマについて被験者が文章で書いたデータを比較しました。結果は、書き言葉は名詞、形容詞、前置詞、冠詞の使用頻度が高く、一方、話し言葉は代名詞、動詞、副詞、感嘆詞が多かったと報告しています。
Harell(1951)の研究では、9~15歳の子供(英語話者)を対象にある映画を見せ後内容について書かせたデータと、別の映画について話したデータを採集。従属節(subordinate clause)の出現頻度と使い方について分析したものがあります。結果は、書き言葉が形容詞句(adjectival clause)と副詞句(adverbial clause)の使用頻度が高く、一方、話し言葉は名詞句(nominal clause)が多かったと報告しています。
これらの研究結果からも、話し言葉と書き言葉の使用には、文構造的な差異があることが確認できます。
日本語では、助詞の使用について書き言葉では助詞の頻出頻度が高く、一方、話し言葉ではしばし省略されることが多いです。
(1)お茶を一杯いただけますか。
(2)お茶一杯いただけますか。(「を」が省略)
今回は話し言葉と書き言葉は使い方や文構造において違いがあるということについて触れ、両者は学習を進める上で別物と認識して取り扱うべきという話をしました。学習教材を選ぶ際も、話し言葉と書き言葉を区別してデザインしてあるか。また4技能のどのスキルの養成を目的としているか考えることをおすすめします。
語学学習を進める上で、話し言葉を中心に学ぶことが大切だということを忘れないようにしましょう。(了)